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わたしの感情の歴史

心のページに刻まれた想いを綴ってゆきます

「わたしが一番きれいだったとき」茨木のり子 


わたしが一番きれいだったとき       茨木のり子


わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように
              ね


---------



戦中戦後を生きた女性たちは、このようなくやしさ、悲しさを噛みしめがら生きてきたのですね。

あの戦争は人々の命だけではなく、美しく生きようとする女性の夢まで奪っていった。

そんな戦争を賛美している人間が「美しい日本」なんて本を出しているから笑ってしまう。冗談じゃねえよ。


癇癪をおこしている女の子の無邪気さが漂う詩でありながら、長生きしてでも美しく生きてやる、という女の執念で締められる最後は、なんともいじらしい。

愛すべき詩人ですね、茨木のり子。


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Posted on 2012/10/29 Mon. 15:47 [edit]

category: 茨木のり子

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