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わたしの感情の歴史

心のページに刻まれた想いを綴ってゆきます

「サフラン摘み」吉岡実 


サフラン摘み         吉岡実


クレタの或る王宮の壁に

「サフラン摘み」と

呼ばれる華麗な壁画があるそうだ

そこでは 少年が四つんばいになって

サフランを摘んでいる

岩の間には碧い波がうずまき模様をくりかえす日々

だがわれわれにはうしろ姿しか見えない

少年の額に もしも太陽が差したら

星形の塩が浮かんでくる

割れた少年の尻が夕暮れの岬で

突き出されるとき

われわれは 一茎のサフランの花の香液のしたたりを認める

波が来る 白い三角波

次に斬首された

美しい猿の首が飾られるであろう

目をとじた少年の闇深く入りこんだ

石英のような顔の上に

春の果実と魚で構成された

アンチンボルドの肖像画のように

腐敗してゆく すべては

表面から

処女の肌もあらがいがたき夜の

エーゲ海の下の信仰と呪詛に

なめられた猿のトルソ

そよぐ死せる青い毛

ぬれた少年の肩が支えるものは

乳母の太股であるのか

猿のかくされた陰茎であるのか

大鏡のなかにそれはうつる

表意文字のように

夕焼けは遠い円柱から染めてくる

消える波

褐色の巻貝の内部をめぐりめぐり

『歌』はうまれる

サフランの花の淡い紫

招く者があるとしたら

少年は岩棚をかけおりて

数ある仮死のなかから溺死の姿を藉りる

われわれは今しばらく 語らず

語るべからず

泳ぐ猿の迷信を-----

天蓋を波が越える日までは


--------



唯々、すごいというしかない。

こんなすごい詩に後付けするコメントなんて書けるはずもない。

豊穣なイメージの湧出、血しぶきのようにほとばしるエロティシズム。

こんな詩が書けるのは吉岡実しかいない。

彼は20世紀最高のポエムアーティストだ。





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Posted on 2012/10/31 Wed. 19:10 [edit]

category: 吉岡実

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